お聞きしたいこと、およびインタビューに関連するお願い

1999年10月12日

敬愛するアマルティア・セン教授

                     日本労働者協同組合連合会 理事長 永戸祐三

 このたびは、超ご多忙の中、またお休みの日に、私たちのインタビューにお時間を割いていただき、心から感激し感謝しております。

 すでに私たちの機関紙『日本労協新聞』の松沢編集長のお願いでも申し上げましたように、私たちは、日本において「労働者協同組合」および「高齢者協同組合」の運動に取り組んでいる者です。

 今回、すでにお願いしていますように、理事長の永戸と副理事長の菅野がお邪魔しますが、加えて、私たちの研究所であります「協同総合研究所」の中川雄一郎理事長(明治大学教授)が、17日に共にインタビュアーとして参加させていただきます。ご了承下さい。通訳は、かつて国連職員としても働き、現在サセックス大学大学院で学んでいる鈴木和人氏にお願いしています。計4人でうかがいますので、よろしくお願いいたします。

T 日本の経済社会の現状と私たちの活動

 教授もご承知のことと存じますが、日本は戦後、民間大企業の成長を最優先して進んでまいりました。

 しかし日本資本主義を押し上げてきた大量生産・大量消費・大量廃棄・短サイクルの経済と、その後の投機的経済が破綻する中で、長期の不況が進行しています。この中で抵抗らしい抵抗もなく、「リストラ」という名の首切りが強行され、戦後最悪の失業状況が発生し、自殺者も増大しています。小渕内閣は、「この程度の失業は経済再生の過程におけるやむえない現象だ」と公言して、何らの有効な雇用対策をとらないどころか、企業のリストラを促進する政策を優先しています。「市場経済における自己責任」を楯に、阪神大震災の被災者に対する生活支援を拒否する一方で、銀行やゼネコン等の企業救済には何十兆円もの公金が注ぎ込まれています。

 何よりも、人間の孤立が深まり、コミュニティが著しく衰退していることです。このために、高齢者が人間関係や役割を失い、「寝たきり」「痴呆」が生み出される一方、自分の生き方・働き方を見出せない若者が増大しています。

 私たちは、このような日本の現実の中から、労働者協同組合と高齢者協同組合に取り組んで参りました。労働者協同組合は、最初は失業者の仕事確保の取組みから生まれました。「働く意志と能力のある者に、生活保護でなく、働く機会を」求めて、働く者自身が「まちづくりに役立つよい仕事」をおこす運動でした。この過程で働く者が自ら出資し、経営し、就労機会を連帯して創造する「労働者協同組合」の方向を明確にするとともに、「人と地域に役立つ」労働の質を掘り下げ、「協同労働」という概念を確立することができました。そして望むすべての人が「協同労働」を選択できるように「労働者協同組合法案」を自ら作成し、深刻な失業情勢の中で、その制定を求めて運動しています。

 他方の「高齢者協同組合」は、高齢者自身がそれを支える人びとと共に組合員となって、「ケア・仕事・生きがい(well−being)」を自ら実現していく、新しい協同組合として広がっています。

U セン教授の著作から私たちが学び、感銘を受けたこと

 そうした中で、イタリアのレガ・コープにおけるセン教授の講演「協同とグローバルな倫理」に触れ、教授の理論と研究が私たちの実践に大きな示唆と励ましを与えてくれるものであることを実感しました。そして『不平等の再検討』や、ILOの論文をはじめとする教授の著作や、NHKテレビ、「東京新聞」のインタビュー、日本におけるセン教授の理論についての研究とコメントを学ぶ中で、その感をいっそう強めました。私たちがそれらからとくに学び、感銘を受けた点は、次のようです。

 何よりも、教授が「協同の原理」に高い位置づけを与えられていることです。これに関わって、次の点を私たちは重く受け止めました。

 第一に、人間は、単に自己利益や効用の最大化だけを求める「合理的な愚か者」ではなく、「共感」と「コミットメント」をもち、相互依存を通じて自由を実現していく存在である、という人間観です。

 第二に、人間の潜在能力の発展と、「個人の多様性が全面的に開花し、個人と個人が豊かに結びつく社会」の実現こそ経済発展の目標でなければならないという、経済・社会観です。

 第三に、(私的な)所有や交換は、「すべての人びとが消費・生産・浩瀚に経済的資源を利用できる」「経済的受益権」をはじめとする、「エンタイトルメント」の下に置かれるべきものである、という公共介入の積極的な意義づけです。

 第四に、人びとが公開の対話や議論を通じて、価値観や規範を創造し、政府と一面で対抗し一面で協力する「公共活動」の主体となっていく、という「参加民主主義」の重視です。

 第五に、偏狭な「国民的特殊主義」を超える、「グローバルな団結、世界市民の感性」に立脚した「偉大な普遍主義」を高らかに唱っておられることです。

 次に、ILOの雑誌で、教授が失業の害悪(penalties)を鋭く指摘され、就労機会を保障し人びとの自立を支援する公共政策の意義を強調されていることです。そして、「高齢者の引退年齢の引き上げ」を、雇用問題の解決と対立させるのではなく、同時的に解決すべき課題として提起されていることです。

 最後に、「職人的生産」や「質の重視」、州との連携や広域的連帯を内容とする、エミリア・ロマーニャ州の協同組合運動を高く評価されていることです。私たち日本の労働者協同組合運動にとっても、イタリア、とりわけエミリア・ロマーニャの協同組合運動は、大きな励ましであり学びの宝庫でした。教授の「潜在能力」アプローチが、現代の協同組合運動に直結した形で展開されていることに、私たちは強い感動と期待を覚えています。

V セン教授にお聞きしたい点

 そうしたことを前提に、10月17日には、次の点を中心にお聞きしたいと思っております。

1.大量失業を克服するためには、どのような理論と政策が求められているのでしょうか。

 私見では、労働力を排除しはじめた大量生産分野や、投機的分野から、ケア、食糧、環境、教育・文化など、「コミュニティの持続可能な発展」を支える分野に労働力を社会的に再配置する必要が生じているように思われます。

――今後の企業の質、企業における民主主義、企業の社会的責任はどのように進化すべきでしょうか。その中で労働者協同組合についてどう評価されるでしょうか。

――産業構造や経済発展のあり方を含む経済政策と、労働政策がどのようにリンクすべきでしょうか。

2.すべての高齢者(障害者)が生き生きと暮らすためには、高齢者(障害者)をどのようにとらえ、どのような市民の活動と公共政策を発展させるべきでしょうか。

 産業社会では、高齢者(障害者)は、非効率な「お荷物」扱いされてきました。教授は、「栄養」「衣料や住居」「保健医療ケア」から「コミュニティ生活への参加」を「潜在能力」の重要な中味に含められています。彼らが「エンパワーメント」され真に「ノーマライゼーション」を達成するには、

――高齢者(障害者)観をどのように転換し

――高齢者自身と彼らをとりまく市民の活動をどう発展させ

――国や自治体はどのような公共政策を採用すべきでしょうか。

3.冷戦の終了後、かえって民族間の凄惨な対立が強まっています。偏狭な「国民的特殊主義」を克服し、「普遍主義」の立場から、平和と全人類的な連帯をつくりだすには、どうしたらいいのでしょうか。

4.教授は、「協同の原理」を高く評価されています。その内容と、契機、アプローチについてお教え下さい。(人間観、めざすべき経済社会像、参加型民主主義と人間発達、企業・セクター的特質など)

5. 21世紀の人類社会を切り開くような協同組合運動とは、どのようなものであるべきだとお考えでしょうか。ICAの「レイドロウ報告」や、エミリア・ロマーニャの協同組合運動研究と関わらせて、お教え下さい。

6.人間の潜在能力の欠如=貧困が最も強く現れている分野として、労働の疎外があるように思われます。労働を社会的に有用で働き甲斐ある、真に人間的な営みに変革していく上で、「雇用労働」のあり方を変革するとともに、「協同労働」の領域を確立することが求められていると、私たちは考えますが、これらの点について教授のお考えをお聞かせいただければ、幸いです。

W インタビューに関連してお願いしたい点

1.このインタビューの要旨を、日本の『エコノミスト』(毎日新聞社)に掲載することをお許し下さい。原稿については、もちろん、事前にチェックをしていただきます。

2.@このインタビューの詳しい内容と、A日本の研究者のコメント、Bセン教授の協同や失業問題に関する論文・講演などの三部構成で出版をできればと考えています。――出版をお許し頂けますでしょうか。その場合の条件はどうしたらいいでしょうか。

――私どもが翻訳・出版できる、教授の論文、講演、関連資料(レガでの教授の講演をめぐるものなど)を御示唆下さい。


トップページへEnglish versionインタビュー速報会見写真集

協同総合研究所(http://JICR.ORG)